TORU "GAPPAI" OSUGI
日本にスラックライン文化を広めたパイオニア|Slackline Research代表
はじまりは、深夜のテレビだった。趣味を探していた頃、偶然映った海外の映像——ラインの上で自由に飛び、跳ねる人々。その瞬間、体に稲妻が走った。「これだ」。
翌日すぐに調べたが、番組では「ロープライディング」と紹介されていたため、検索しても何も出てこない。名前すらわからないまま1年。ようやくYouTubeで同じ映像を見つけ、それが「スラックライン」と呼ばれることを知る。当時日本で道具を扱っていたのは、たった1軒のクライミングジム。そこに注文し、2009年6月、ラインの上の人生が始まった。仕事の前に朝練、土日はラインの上。のめり込むまでに時間はかからなかった。
2011年、KING OF SLACKLINE優勝。同年、GIBBONのインターナショナルライダーとして契約し、プロの道へ。2011年・2012年と日本オープンを連覇し、2013年、アメリカ・ワシントン州スポケーンで開催されたSLACKLINE WORLD CUPで、決勝でアレックス・メイソンを破り、日本人史上初の世界王者となった。
だが本人は、この優勝を「通過点」と言い切る。ただこの上で自由になりたい——その一心で始めたスラックラインが、いつしか大会のルールや勝敗に縛られ、苦しいものになっていたからだ。王者となった大杉は、あえて競技の最前線から一歩引き、ロングライン、そしてハイラインへと向かっていく。
動機は、いつもシンプルだ。スラックラインの全部が知りたい。もっと自由に動きたい。本人いわく「ただのスラックラインマニア」である。日本スラックライン連盟の教育部長として国内初の安全マニュアル・指導員試験・検定制度をボランティアで作り上げたのも、誰かのためである前に、まず自分が一番知りたかったから。自分が成長するために動き続けた——ただそれだけの歩みの結果として、木のない場所にはスラックアンカーが生まれ、累計500件を超えるイベントが生まれ、全国22の認定パートナー施設と、受講生130名を超えるハイライン入門講座が生まれた。2017年、その探求の拠点として Slackline Research を設立。一人の男の「知りたい」「自由になりたい」が、そのまま日本のスラックラインの土台になっている。
【TVCM出演】
【テレビ出演】
【雑誌掲載】
現在の世界標準トリックの多く——フリーフォール、ナスティーチェストなど——は大杉の考案によるものである。当時、トリックラインの技の約6割は、世界のトップライダーであるアンディ・ルイスと大杉の二人によって創造されたと評される。
ただし本人に「技を作ろう」という意識はなかった。ラインの上という未知の領域を探索し、遊び尽くす——その過程で、まだ誰も名前をつけていない動きが自然と生まれていった。技とは発明ではなく、探検の途中で見つかった発見である。誰かに認められるためではなく、ただ楽しいからやっていた。その純度が、このスポーツの語彙そのものを作った。そしてその探索は、終わっていない。
記録は、地図のない場所にしか生まれない。
大杉が開拓した岡山・王子ヶ岳は、瀬戸内海を見下ろす花崗岩の山に「The 101」(101m)「Prince Line」(55m)などのラインが張られる、日本のハイラインシーンを象徴するスポットとなった。2020年12月放送の『世界の果てまでイッテQ!』では、イモトアヤコさんのハイライン挑戦をサポート。挑戦に適した新スポットを求めて王子ヶ岳の山中を2日間歩き回り、理想の20mラインを見つけ出した。2025年には米国人スラックライナー、ジャスティン・デイビスの来日に密着したドキュメンタリー『FOUNDATION』に出演し、同作は米国最大級のスラックライン映画祭 Anchor Point Film Tour 2025 でグランプリを受賞している。
大杉が探索し続けているのは、技でも、場所でも、記録でもない。「スラックラインで何ができるのか」——その本質そのものである。ラインの上に広がる未知を開拓していく過程で、たまたま技が生まれ、たまたまその場所に記録が残った。順番はいつもそうだ。もっとも本人は「記録に挑んでいた頃は、記録そのものを求めてしまっていた時期もあった」と振り返る。純粋な探索と、結果への欲。その間で揺れながら、それでも戻ってくる場所はいつも同じだった——ただ、この上で自由になりたい。
そして今、スラックラインの最前線には新しい暗黒大陸が広がっている。ハイラインフリースタイル——遥か上空のラインの上でトリックを繰り出す、スラックラインのすべてが凝縮された未開の領域だ。いま世界中のライダーが同時にこの大陸に上陸し、それぞれの発見を持ち寄りながら探索を進めている。国境を越えた、ひとつの壮大なゲーム。
大杉徹は、いまもその探索の真っ只中にいる。
スラックラインは、自分と向き合うための道具である。「バランスがシビアだから、間違った体の使い方や姿勢をすると、スラックラインが教えてくれる。心と体はつながっているので、自分と向き合うのにすごく便利な道具なんです」その哲学は、遠回りの末にたどり着いたものだ。始めた頃は何も考えず、がむしゃらに練習して体を一度壊した。そこから体の使い方を学び、今度は考えすぎて行き詰まった。そして最後に戻ってきた答えが「何も考えないのがいい」。力むほど心と体は閉じ、何も見えなくなる。リラックスすれば世界が広がり、遠くの音まで聞こえ、バランスは自然と取れていく。ハイライン日本記録更新の挑戦をテレビ番組が密着した時のこと。時間もトライ回数も限られ、「渡らなければ」という重圧の中で、9回目のトライの途中、ふいにお天気雨が降った。その瞬間、自然を全身で感じ、線と、風景と、本当に一体になれた——大杉が伝えたいのは、この感覚である。だから指導も「まず歩かせない」ことから始まる。フィート・スクワット・モンキー・ワンフットレバー・エルシットの5つの基本ポーズで体を慣らす。この考え方はチャレンジカードとスラックライン検定という仕組みになり、全国の認定パートナー施設で初めての一歩を支えている。渡りきることが目的ではない。渡れなくても、よく乗れた瞬間の楽しさがあればいい。スラックラインから人生に通じるものを学ぶ——それを、ラインの上の人々は「スラックライフ」と呼ぶ。
裸足で感じる自由や、自分の足で冒険する楽しさを伝えるアンバサダーとして活動中。
Q. 指導を受けるにはどうすればいいですか?
A. 体験会・ワークショップのほか、ハイラインを学びたい方はオンライン教材「ハイライン入門」(受講生130名以上)から始められます。受講者は全国の練習会・コミュニティに接続されます。
Q. パフォーマンス出演・メディア取材の依頼はできますか?
A. 全国対応で承っています。テレビ・CM出演、スタント監修、安全設計アドバイザリーの実績多数。お問い合わせフォーム、電話(090-4106-4851)、メールでご連絡ください。
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